メディアと乳幼児の関わり方について

tsuhciya002

<<「あたりまえが難しい時代の子どもたち&親たち」の続きです)

―先生はメディアの乳幼児への影響についてもご研究なさっていますが、そのことについて教えてください。

乳幼児期の親は、「子どもが喜ぶこと」や「子どもが集中する」ことに弱くて、そうするとテレビやDVDの見せすぎということが簡単に起きてしまうんです。子どもが喜び、せがむので何度でも同じビデオをまわし、子どもが「ぐーっ」と集中しておとなしくなっていると、知的なことに集中して一生懸命になっているのだからと、子どもに声をかけずにそのままにしてしまうのです。

マジック(魔法)にかかってしまっているように思えます。
「この子は、こんなに集中している。知的によく育っている」、「私は子どもの要求にしっかり応えて子育てをうまくやっている」という気持ち、それを私は「親の効力感」と呼んでいます。でも、集中しないのが乳幼児の特性です。あっちこっちに興味を持って、親にうるさくまとわりついたりするものなのです。静かに一つのことに集中している姿は乳幼児ではなく、小学校高学年の子どもの理想の姿です。そのことをおかあさんとの信頼関係ができてから指摘すると、突然憑き物が落ちたように納得されて、魔法がとけたようになるのですよ。親御さんから、子どもの成長にふさわしい生活を取り戻していきます。

―何故魔法にかかるのでしょうか?

親の効力感を、メディアがくすぐっているんです。賢い子に育ってほしい、集中することはいいことだという大人の感覚がありますから。視聴覚教材での通信教育や習い事の低年齢化が進んでいますが、そういうDVDは子どもを飽きさせないよう計算して作られていて、逆に子どもに飽きるという感覚が身につかなくなってしまうのです。子どもの発達では「NO」といえることと、ONとOFFの切り替えを自分でできるようになるということが大切なのに。

ただおとなしくしているのを集中が継続していて、小学校の高学年での集中を先取りしていると見るのは誤りです。すぐ飽きてうるさくして、わからんちんだったり、親や兄弟とぐちゃぐちゃもめながらコミュニケーションしていく、そのぐちゃぐちゃの乳幼児期が実は大事なのです。それが子どもの大事な基盤、生きていくたくましさになるのです。
そこがないと、言われたことしかできない、集中力が切れたとき、面白いものが消えたときに何をしたらいいのかわからなくなって、学習や物事に取り組む意欲、創造的に自分の人生を切り拓く力を持てない人間になってしまうことの恐ろしさに気がついて欲しいと思います。

メディアはツールなので、与えてはいけないということではありません。使わせ過ぎないこと、そして大人と子どもでは受ける刺激も全然違う、そこをよく考えることだと思います。諸外国では、子どもの見る画面の色使いに気をつけたり、パソコン教育のあと必ず戸外で過ごすなどのプログラムをとりいれているところもあると聞きます。
また、親が携帯やパソコンに夢中になって子どもからの呼びかけに反応しなくなる状態を、私は「ITネグレクト」と呼んでいます。子どもは学習能力が高いから無視され続けると何もうるさく言わなくなりますが、コミュニケーション能力が育たなくなるなどの懸念もあるので、くれぐれも気をつけてほしいと思っています。自分の見ている携帯などの画面を見せながら、子どもとコミュニケーションをとるなどの工夫もできますしね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

土谷先生に委員としてご参加いただいた平成20・21年期県青少年問題協議会では、乳幼児~小学校低学年の保護者向け冊子『上手なつき合い方してますか?子どもとテレビ。』を平成22年3月に作成し、配布しています。県HPからもPDFでご覧いただけます。

[先生のコメント]

心身共に成長期の子どもには、五感を使って遊ぶことと、周囲の大人とのコミュニケーションがとりわけ大切な体験です。冊子の中では、間接体験と直接体験のバランスをとることや、大人と一緒に同じモノを見て感情を共有して話すことの大切さを伝えています。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

―それでは最後に、ポジティブメッセージをお願いいたします。

子どもを取り巻く環境が変わり、少子化で親や祖父母の期待まで子どもにかかるようになり、こういう子に育ってほしいという大人の願いが先行してしまう時代を迎えています。
でも子どもは変わらない。子どもには力があります。その持っている力を伸ばしてほしい。
与えるものではなく、引き出すものなのです、子どもの力って。
たくましくて、面白くって、いたずらで、わからんちんだけど、それが生きていく力につながるのだから、もっと子どもの特徴を楽しんで、持っている力を引きだして欲しいと思います。
また、周囲のシニアの方へのメッセージですが、
今のお父さんお母さんが子育て下手になったのではなく、社会の変化が急速に進む時代に必然的に起こった現象なので、「今もし自分がこの時代で子育てしたらやっぱり同じ状況になるかもしれない。あそこにいるのは自分かもしれない。」という感覚で、特別視せずに、子どもたちに何が必要かということを考えてほしいのです。
皆さん一人ひとりが、もしあなたが幸せな子ども時代を送ったのであれば、そのあたりまえだった時や楽しかったのは何故かを分析し、今に取り戻したり創造したりする作業といいましょうか、それを思って子どもの育つ環境を整えるというところに力を貸していただきたいと思います。そのことで、今のお父さんやお母さんはもっと子育てがしやすくなって、皆さんと同じように子育てを楽しめるようになる。そんなことを思っています。

―ありがとうございました。

———————–プロフィール———————————————————
土谷みち子(つちや みちこ)
関東学院大学 人間環境学部 人間発達学科教授
日本女子大学大学院 文学研究科教育学専攻修士課程修了
1986年~ 日立家庭教育研究所 勤務
2004年~ 東横学園女子短期大学保育学科助教授・教授
2007年より現職
平成20・21年期神奈川県青少年問題協議会委員、現在横浜市地域子育て支援拠点(戸塚区・金沢区・神奈川区)スーパーバイザー、他を歴任。
著書は「父子手帳PARTⅡ.乳幼児編」1999(共著)大月書店、「『気になる』からはじめる臨床保育」-保育学からの親子支援」2005(共編著)フレーベル館、「『あたりまえ』が難しい時代の子育て支援」2007(共著)フレーベル館 「家庭支援論」2010(単著)青鞜社など。
——————————————————————————————–