「伝えたい」から広がった世界

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今回のゲストは、アロマセラピスト、大橋マキさん。元フジテレビアナウンサーとしてご存知の方も多いかと思いますが、現在は葉山でお子さんを育てながら、アロマのお仕事に加え、地元での活動やチャリティーイベントなど、多彩な活動をされています。

―まず、大橋さんがアロマセラピストに転身された経緯を教えていただけますか?

もうずいぶん前のことになりますが、アナウンサー時代に情報番組の体験取材でアロマセラピーのお店に行ったことがきっかけです。セラピストさんのタッチが、羽根のように柔らかくてリラックスしてしまい、カメラが回っているのに寝てしまいそうになりました。同時に、過去の記憶が匂いや皮膚感覚とともに鮮やかによみがえり、初対面でいくらも言葉を交わしていないのに、どうして自分はこの人にすぐ心を開いてゆだねることができるのか、その「タッチ」の力に衝撃を受けたのです。
当時、忙しさに追われる日々で、せっかくアナウンサーになったのに、伝え手としての原点であるべき「伝えたいこと」を見失い、感じる心も持てないまま、これでは誰かの心を動かす力など持ちようがないと悩んでいました。そんなときに、自分の心と体が動かされる体験をしたものですから、「これは絶対私を呼んでいる!」と思い勉強を始めたのです。でも勉強すればするほど興味がつきず、もっと知りたくなって、アナウンサーをやめてイギリスに渡りました。イギリスでは、当時からアロマセラピーが、音楽療法や芸術療法同様、通常の医療とともに行う代替医療として認知されていました。その取材をしながら学校にも通い、アロマセラピストの資格を取りました。そうやって、自分が動かされたものへの興味が満たされつつも、次には自分でもやってみないとまだわからないと思い、帰国してから、病院で働きはじめました。

―病院でのアロマセラピーとはどのようなものでしたか?

滞在型の高齢者のための病院で7年間働いたので、多くの方の人生の最後の時期をご一緒させていただきました。セラピストは医者ではないので、対象者の情報がほとんどない上、その方も認知症で記憶がなかったりするので、言葉によるコミュニケーションができないことも多いのですが、トリートメントをして、話しかけて、を繰り返すうちに、粉を吹いていたお肌がツルツルになったり、失語症の方がポツッとお話しをはじめたり、変化が起こるのです。また、その方の過去の思い出や経歴が透けてみえる瞬間もあり、なんともいえない喜びがありました。
「言葉にして伝える」のではない、別な形のコミュニケーションの方法というものがあるのですよね。ずっと自分の中にあった「伝えたい」という思いが、まったく別の形で満たされたのです。しかも相互に「伝えあう」形で。自分自身、どんなに疲れていてもトリートメントをすると代謝がすごくよくなり、元気になるんですよ。アロマの効果もあるかもしれませんが、やっぱり心が通う瞬間にいただくものが大きいのだと思います。子育てがひと段落したら再開して、コツコツ続けていきたいなと思っています。

―すごく深い経験ですね。子育てに通じるものもありますか?

そうですね。命に向きあうという意味では同じかもしれません。
本当に子どもって、今しか考えてないですよね。すごい集中力があると思えば、「何でそれ忘れちゃうの?」と思うほど、大事ではないことは何も覚えていない。なんかそれを見ていると、いずれ人生の最後にまたそこへ戻っていくのかなあと思います。
娘が生まれる前にアロマセラピーの仕事を通じて、心や体で感じたり、味わったりということを大事にできるようになってから、娘に会えて本当によかったと実感しています。

葉山で学んだ「子育てはおたがいさま!」>>に続く

———————–プロフィール———————————————————
大橋マキ(おおはし まき)
2001年、フジテレビアナウンサーを退職後、英国に留学。植物療法を学ぶ。IFA認定アロマセラピスト。
7年間、アロマセラピストとして病院で活動後、現在はオリジナルブレンドアロマ「aromamora」をプロデュース。アロマ空間デザイナーとして、イベント、コンサート、ショップなどで、香りのある空間づくりに取り組むほか、チャリティー活動にも力を入れている。
2011年12月に第2子が誕生予定(取材時)。
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